「働く」ということは、
    憲法で定められた国民の義務なのじゃ!


日本国憲法第3章第27条
「すべて国民は、勤労の権利を有し、義務を負ふ。」

1947年5月3日に施行された日本国憲法は全11章103条からなるものじゃが、
その第3章第27条において、勤労の権利と義務が定められているのじゃ。

勤労の権利(労働権)

働く能力と働きたいという気持ちに応じて、誰にでも平等に働く機会が与えられる権利

勤労の義務

働いて、それぞれが暮らしを営み、社会に尽くすことは大切な務めであるという義務


※白鷗大学教授 福岡政行監修「憲法があらわす国のかたち(2011年、学研教育出版)より引用

「働く」について、もう少し詳しく見てみましょう。

「働く」ってそもそもどういう意味なの?


「働く」とは、「仕事をする。また、生計を立てるために一定の職につく。労働する。」
という意味が一般的じゃな。
でも一説にはこんな意味もあると思うのじゃ。


「働く」=傍楽

一説によると、江戸時代では傍」(はた)を楽(楽)にするという意味で使われていたといいます。
傍(はた)とは、「そば。かたわら。また、そばにいる人。第三者。」を意味します。
家族を、友を、地域を、社会を、全ての他者を楽にさせることが、「傍楽」であるそうです。
そういった他者への貢献という意味での「働く」が江戸時代では一般的だったのですね。

越川禮子『暮らしうるおう江戸しぐさ』(2007年、朝日新聞社)

よく「働く」目的を問われると、自分の生活の為という答えが多いと思うのじゃが、自分の為だけでなく、社会の役に立つことこそが「働く」であると考えると、また違って見えてくるのではないじゃろうか。


なぜ働くことは「義務」とされているの?


この義務規定の由来については諸説ありますが、有力なものとしては、太平洋戦争で荒廃した日本を復興させていく為に、当時の社会党左派代議士穂積七郎らが従来の兵役の義務に代わり、勤労の力によって経済活動を活性化していくことが重要であるという考えを主張していたことが発端だという説があります。
全国民に働く場が与えられて、働く国民が安心して生活していくことができ、そうして「働かざるもの食ふべからず」という経済の体制ができることで、民主主義を確立していく。そうした中では「勤労体制の確立」が不可欠 だったことから、義務化されたといいます。勤労を義務化する代わりに、国民には政治や経済の運営に対して直接参加できるような法律の整備を同時に行うべきという主張もされていました。そういった意見が反映されて、日本国憲法に盛り込まれたと言われています。

(昭和21年07月03日 衆議院帝国憲法改正案委員会会議録より)

一方で、元農林大臣の石黒忠篤が、将来日本が独立して自主性を取り戻した段階において、日本を背負って立つ青年が労働の権利だけを主張し、義務を怠るようなことがあってはならないとの考えから、義務性を主張したという説もあります。

(橋本伝左衛門・日本農業研究所『石黒忠篤伝』(1969年、岩波書店))





いずれにしても、勤労の義務はもちろん強制的なものではなく多分に論理的な性格をもつものじゃ。勤労の権利も、私企業の自由を認める資本主義経済を前提とする以上、常に100%実現されていなければならないものではないと言えるのじゃ。
ただしじゃ、経済活動を活発化させていかないことには今後の日本の繁栄はないゆえ、国が働く場を提供することもさることながら、皆さんの「働く」という意志・意欲がとても大事ということじゃ!!


「勤労の義務」があるのは日本だけなの?


先進国では、憲法として「勤労の義務」が定められておるのは、 日本以外では中国と韓国のみなんじゃ。
条文の一部を引用しておくぞ。


中華人民共和国憲法(1982年制定)

第2章 公民の基本的権利及び義務
第42条
1.中華人民共和国公民は、労働の権利及び義務を有する。
2.国家は、各種の方途を通じて就業の条件を作り出し、労働保護を強化し、労働条件を改善し、かつ、生産の発展を基礎として、労働報酬及び福祉待遇を引き上げていく。




大韓民国憲法 現行憲法(1987年制定)(第六共和国憲法)

第2章「国民の権利と義務」
第32条
・全ての国民は勤労の権利を有す。国家は社会的、経済的な方法により勤労者の雇用促進と適正賃金の保障に努力しなければならず、また法律が定めるところにより最低賃金制を施行しなければならない。
・全ての国民は勤労の義務を有す。国家は勤労の義務の内容と条件を民主主義的原則により法律によって定める。




日本国憲法と比べてみると、勤労の権利や義務に対して、国がどんなことをするべきかという具体的なことにまで言及しているというところが特徴的じゃろうか。ただしじゃ、同じ勤労の義務があるとはいっても、新卒採用のシステム自体は日本と大きく違うゆえ、新卒であっても就業経験(インターンシップなど)や英語などの外国語のスキルを求められるため、就職活動はより厳しいものとなっておるそうじゃ。


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